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FAZIOLIを集中的に聴いてみて

FAZIOLIを集中的に聴いてみて

次なる課題

わずか30年余りで頭角を現すためにはそれなりの戦略が必要でしょう。
FAZIOLIはスタンダードピアノでありながら、演奏者の食指に触れる音色を醸し出すことに成功しました。
活きのよい演奏が好まれるコンクールで頭角を現すことに成功し、既成の概念にとらわれないピアニストや、良い音を求めてやまない録音技師の評価も取り込むことができたことでしょう。

また、そのクリーンな音質から、ホールの出来不出来に影響されずに客席の隅々まで安定した音質で演奏を届けることができる、観客にとって喜ばしいピアノになりえたと思われます。

そして弱点とされていた音量不足も初期モデルからはもちろんのこと、2010年のショパンコンクールで使用されたモデルよりも大幅に音量アップを果たせているといいます。※

 

しかしその反面、進歩と裏腹にその特徴が半減してしまったのではと思わせられました。

わたしには2010年のショパンコンクールで使用したピアノのほうが、ピアノとしての完成度が高いように感じられたのです。

 

クラシック音楽では、ピアノは現代的な音がしてはいけません。

 

次なる課題は枯れた演奏を好む、昔ながらのクラシックファンを取り込むことではないでしょうか。

新たな曲を弾く分には問題ないのでしょうが、ことクラシックでは、既存の他のピアノとあまりにもかけ離れた音色は受け入られないことでしょう。

たとえそれが、ピアノ本体の抱えている問題や、弱点を克服したものだとしてもです。

 

王子ホールとアンジェラ・ヒューイット

王子ホールで行われたアンジェラヒューイットのコンサート≪第一夜≫は、FAZIOLIというピアノを知る貴重な体験となりました。

王子ホールとの相性なのか、FAZIOLIの特性なのか、調律師のなせる技なのか、はたまたアンジェラ・ヒューイットの微妙なタイミングなのか、演奏中のユニゾン部で今まで耳にしたことのない独特のホールトーンが醸し出された瞬間がありました。

ノリと強弱でしか語れないピアノという楽器が、音色を放った貴重な瞬間を体験できた二重丸なコンサートでした。

 

アンジェラの演奏も、堂々としたミスタッチはライブで聞く分には、かえって小気味よささえ感じられました。

なるほどバッハの第一人者との評価もうなずけるところです。

 

そして予想通り、FAZIOLIのピアノは、録音技師がマイクを設置し集音する、ベストな音そのものが観客席の隅々まで届く今迄の常識を覆す音を放出していました。

これはピアノの持つ「位相的に致命的な楽器」というレッテルを覆す大事件です。

ただし、良い音響として名が馳せられている王子ホールとの相性はどうでしょうか?

王子ホールはどこかしらにピークがあって、通常であれば観客にとっては小気味の良い響きとなるところが、FAZIOLIでは強調されてしまって悪影響を及ぼしているように感じられました。

私には、彼女はスタンウェイで弾いたほうがより良い演奏になったのでは?と感じられました。

FAZIOLIが大好きというヒューイットや、好意的に聴いている分には気にならないのですが、ひとたび客観的に聞いてみるとレンジがとても狭い演奏に聞こえました。

狭いというより、フォルテもピアノもうるさいのです。

それが、今、あるいはこれから抱えるFAZIOLIの弱点に思えたのです。

それぞれのピアノメーカーはそれぞれの特色があってもよいので、余計なお世話かもしれませんが、一つの意見として書いておきます。

活きの良さと減衰

それは、明らかに活きがよすぎることです。

これが、材質なり、構造なり、製法なりを極めることで達成された成果だとしても、ピアノという減衰楽器という性格から逸脱してしまっていることです。

もう少し構造とかフェルトとかで、減の振動を抑えて減衰を早めてやる必要があると思います。
そうでないと、発した音が、聞きなれた減衰スピードより遅く、違和感を感じるばかりか、とてもうるさい印象を受けます。
その結果、好意を持って聞いている人に比べ、そうでない方々は、小さい音(ピアノ)は大きく聞こえ、大きい音もうるさい割にレンジが狭く感じてしまうのではないでしょうか。

特に、サスティーンペダルを踏んだ後、いつまでもなり続けるので、自然な終わりを演出することができず、途中でカットする形になる上に、ペダルを離してミュートする時の、その特有のビビりが耳についてしまうのでは、もはや弱点と呼んでもよいでしょう。

この点では演奏者がピアノに気を使ってしまいそうです。

これでは古典的な名曲の、古典的な名演奏は生まれないのではと心配になってしまいます。

多様な技術を持ち合わせていることでしょうから、クラシックチューンとポピュラーチューンを明確に打ち出し、
ケースバイケースでどちらのセッティングもできるようにしておくとよいと思いました。
そうすれば、4番ペダルが、弱点を補うためではなく、より強力な武器となりえるのではないでしょうか。

とにかく現状では、伴奏楽器としてFAZIOLIが指定されることはないのではないでしょうか?
主役より目立ってしまいそうです。

 

周囲の期待に応え音量面もクリアしたので、次の次元としては、音の減衰にこだわってみてはどうでしょうか。

ピアノは音の放出ではなく、音を吸い込む楽器です。

せっかく出た音があっという間に減衰してしまうので、観衆が聴きいるのです。

演奏者の集中力ではなく、観客の集中力を高め引き込む音をつくることが必要です。

先日聴いたスタンウェイのCD75はそれほどレンジが広いとも思われませんでしたが、体感の聴感ではレンジが広いと評判なようです。大きい音を出してもびくともせず、また素早く吸収してしまう頑丈かつやわらかい材質で作られているのではないかと思わせてしまう音がしておりました。

FAZIOLIも苦労して作り上げたフェイズコヒレンスな音をいつまでも放出するのではなく、潔くひっこめてしまうと観客をさらに引き込むことができるのではないでしょうか。

 

ヒラリーハーンのシャコンヌは、どんなに広いホールでもその音色は響き渡ります。

そこでは名器の助けを借りてはいません。

観客が、その一音一音を聞き逃さないために静寂になるのに加え、観客自体が異常な集中力を発揮するからです。

ダイナミックレンジにとって大切なのは「期待感」と「期待を裏切る」です。

 

感想

トッパンホールのボリス・ギルトブルクに始まり、ファツィオリの日本総代理店ピアノフォルティ株式会社の代表取締役アレック・ワイルにお話を伺うことができ、2010年のショパンコンクールで使用したF278と、ギルトブルク、ヒューイットが使うF278,そして4番ペダルのあるF308をショールームで聴き比べ、音響のよい王子ホール、音楽之友社の第52回レコード・アカデミー賞の器楽曲部門アカデミー賞受賞CD、そしてNHKBSのクラシック倶楽部(5/15の予定)と一通りの環境でFAZIOLIのピアノを聴くことができた事はとてもラッキーでした。
聴いてみて思ったのは、

  • ついに録音マイクが聴く音を客席で聞くことができたこと
  • 古典派にはまだ受け入られなさそうなこと
  • ピアノは古い弦のほうが好まれること
  • 万能ではないこと
    伴奏には向いておらず、ソロやコンテスト、発表会などでは実力以上の結果になるのではないのでしょうか
  • まだまだ改善点はあるのだということ。
    2010年のショパンコンクールで使用されたピアノもショールームで聴かせていただいたのですが、それよりもさらにダイナミックレンジは広がっているとのことです。
    ただ、クリアすぎる音声は音量が感じられなかったり、低音域の唸りの不足など、別の面もあるのではと思いました。
  • 一般受けという面では「良かれと思っても必ずしも良い結果になるとは限らない」ということです。
    やはり、電子ピアノのように、伴奏モード、BGMモード、ショパン風モード、リスト風モード、モーツァルトモード、ジャズモード、ロックソロモードの切り替えを調律師の手を借りずにできるようなスイッチが必要なのではと。

と、文句を言っているようですが、私にとって今のFAZIOLIはロック界のジェフベック的な存在です。

孤高のサウンドです。

 

ちなみに調律は、もとスタインウェイに所属していた日本の越智晃氏が調律されています。

CD

Bach, J.S.: Art of Fugue

中古価格
¥1,980から
(2017/7/18 11:02時点)

※専属調律師 越智晃さんのインタビュー
http://www.piano-planet.com/?p=661

 

Angela Hewitt  ―第1夜―Angela Hewitt  ―第1夜―

ヴェンゲーロフ・ロンドン・ライヴ田中晶子 マキシム・ヴェンゲーロフ

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