基準となる音、CD75を聴くことができたので、お手元のピアノをCD75風にする方法を紹介(妄想)します。
ピアノの基準の音 ニューヨーク・スタインウェイ《CD75》 風
ピアノの音色といえば、弁当箱から飛び出したおにぎりみたいな、ギューギューな音が特徴です。
ほとんど木槌の音です。
CD75はそんなおにぎりのような抑圧的な音ではなく、サンドイッチな感じです。
今回は重たいイメージの4分音符ではなく、自由奔放な軽いイメージの2分音符に羽をつけた感じにしてみます。
録音と、奏者自ら楽しめるようにと、リスナーに聴かせるよう、それぞれについてチャレンジしてみます。
先にお断りしておきますが、実際に試してはいない妄想も含まれています。
まずは録音から
重要なのが静けさです。
静かな場所と、時間を選んでください。
CD75はダイナミックレンジが広いとの評判ですが、このことは、必ずしもより大きい音が出るということではないこともあります。
微弱な音が出せることでも実現しますし、実際のレンジは変わらなくとも、ピアノシモで聞く側に集中することを促すことでも、ダイナミックレンジ感は広がります。
「シーン」と音がするくらいの場所で演奏を聴くとレンジが広がるということです。
静まり返るほどの名演でも、皆が集中するのでよりレンジが広く感じることもあるでしょう。
人間の耳は雑音をフィルタリングする機能が備わっているので、そんなにうるさくはないと思うときでも、実際はかなりうるさいときがあります。
その雑音を取り除くと、より聞くべき音に集中できるようになるため音がよくなったように感じるのです。
しかし、人間のフィルタ機能のない録音機では、しっかりと雑音が含まれて録音されてしまいます。
音が濁ってしまいますし、雑音の中では、演奏者がだんだんフォルテ気味になるうえにレンジも狭い方向にシフトしていくことが考えられます。
それほどうるさくはないとお感じの場合でももう一度見直してみてください。
録音の仕方
部屋自体の反響はケースバイケースになります。
いったんは吸音や遮音を試みて、そのうえで残響を足していく手順がよいでしょう。
壁や天井と床同士が平行なことによる定在波が発生しそうなら吸音なり反射板なりで調整します。
ピアノの設置場所を移動できるのであれば、それこそ数センチ単位で音質は変わっていきます。
とりあえず部屋と平行にはならないように移動しておく程度にしておきましょう。
部屋の反響とかは大がかりになるのと、影響度が不明なので最初からあまり気にしないほうがよいです。
マイクはモノラルなら単一指向性のダイナミックで、ステレオなら単一指向性のコンデンサーでX-Y方式で録ります。
ダイナミックを勧めるのは、コンデンサーでは、好みのポイントを見つけるのに時間がかかる場合があるからです。
微妙な位置変更でも音質が変わったりするので、選択肢が多くなり過ぎることで、本筋から外れてしまうことがあるからです。
手持ちのマイクがコンデンサーの場合も、最初にモノラルで録ってみてください。
物足りなく感じますが最初からあまり凝らないようにしましょう。
ステレオ録音の設置方式の種類は別途簡単にまとめましたので参考にしてください。
ただし一般的なステレオ録音でのピアノの録音は、ここではお勧めしません。
理由は位相的に整合性が保てているのはX-YとPZMとバイノーラルだけだからです。
決して実際に聴かれることのない変な位相の音を、わざわざ録音技師が作り出しているようなものです。
X-Y方式ではPZM的にマイクの方向を無視して設置してもよいです。
音は飛んでくるのではなく空気伝搬であることが、このことでも理解できたりします。
設置場所は演奏者から見て、一般的な右側ではなく正面が良いです。
グランドピアノならピアノ本体の上方ではなく更に先に設置します。
大屋根は全開で。
もしもコンサートピアノなら大屋根を取り外してピアノ本体の上方3 m位の位置で、なるべく鍵盤の打音を拾わないポイントに設置します。
アップライトの場合は……アップライトの場合は自宅ですよね?
まずピアノ本体は、屋根を開けます。
たいてい、開けてみるとストッパーの機能があったりします。
不明ならかかりつけの調律師さんや楽器屋さんに聞いてみてください。
ついでに前板も外せたらよりご機嫌です。
譜面がいらない場合にはぜひチャレンジしてみてください。
マイクの位置というかマイクの設置場所は、家の中でピアノの音が一番小さく聞こえる場所を見つけます。
ドアを開けた状態で直接音が聞こえないところで、良い場所を見つけます。
広い部屋のほうが自由度がありますが、トイレとか浴室でも思いもかけず良い音の場合があります。
場所が決まったら反響しそうな余計なものを取り払います。
おおまかな位置が決まったら、そのゾーンでお好みの位置を見つけます。
その場所付近の定在波が発生しないように上下両脇を遮音、吸音すると音がはっきりします。
時間をかけ過ぎると、逆に決められなくなるので、まずはインスピレーションで決めてしまうのがお勧めです。
残念なことに、耳を頼るよりレベルメーターで決めてしまうほうが、再現性のある収録ができます。
位置が決まったら、毛布とか布団とかをマイクの根本の床に置くなどして最終的な残響調整をすると、面白いです。
目標は、お気に入りのCDなどを参考にしてみましょう。
どちらも必ず、一度はヘッドフォンでも確認しましょう。
一度お気に入りのポイントが見つかったとしても、念のため改めて前後に位置を移動してみます。
オンマイク好きな方は、一度はつまらない録音になるくらい遠のいてみましょう。
オフマイク好きな方は、一度は低音と高音のバランスが崩れたり、変なウネリが出てくるまで近づいてみましょう。
ベストなポイントはモニタリングだけでは決められません。
実際に録音した演奏と、お気に入りのCD、さらに通常の方法で録音した演奏とを、同じ環境で再生して、比較します。
何か思いついたら必ずそのことを試してみましょう。
良いポイントを見つけるためには小曲で繰り返し録音し、試聴するのがポイントです。
次に、演奏者がその気になる方法
まずはノイズキャンセルヘッドフォンで聞く方法です。
先ほど録音するために設置したマイクの音声をノイズキャンセラー機能付きのヘッドフォンで聞きながら演奏します。
最初に生音があまり聞こえないか、気にならない程度の音量に調整します。
その状態で演奏します。
次に、体に害のない程度の大音量と、かすかな小音量にして演奏します。
これで自身の鍵盤へのタッチが変わってきたら、しめたものです。
演奏する演目に合っている音量(演奏)を見つけてそのタッチを覚えるか、ヘッドホンの音量を目盛っておきましょう。
タッチの適正音量が見つかったら、次は演奏そのものではなく、無音に注目して演奏してみます。
演奏そのものが雑音で、無音が音楽のように聴きます。
演目にもよりますが、うまくいけば芸術的になってきます。
ピアノは減衰楽器のため、割と気にされていないかと思いますので、無音の大事さをバイオリンで説明します。
バイオリンにおいて、無音のない演奏はまず感動しません。
アンネ=ゾフィー・ムターみたいに一般受けというか魅力的っぽいのは余韻がしつこく感動するまでビブラートが止まりません。もう無音までがビブラートです。
庄司紗矢香みたいな天才というか狂気的なアーティストは無音の部分に主張があり、感動するまで無音を溜めます。
神様的なヒラリー・ハーンは正確無比に曲を表現して、その正確無比な無音で、安定した感動を作り出しています。
ピアノではそんな違いを表現できないとあきらめずに、試してください。
世の中には必ず雑音があり、
音楽はその雑音を基準とした音(ここでは無音)の上に成り立っているので、
無音と有音の音量差は立派な曲の一部です。
演奏する際にはこのことを忘れないように、無音に合わせた演奏がよい演奏になっていきます。
ヘッドフォンを使うのは一般的ではないと思うので、通常は次のようにしましょう。
普通の方法
まず、部屋(会場)が狭いうえに壁の対面が平行で、定在波になってしまう場合は、吸音か、反射板で音を散らしてください。
ピアノの向きも壁と平行にならないほうがよいです。
特に着座位置の両側の壁と天井は念入りに吸音しておくと音が明瞭になります。
次にやりたいことは、下方からの音の減音と、鍵盤の雑音の遮断です。
下方からの音を減らすために、毛布なり、布団なり、頑丈な箱なりを置いて効果を確認してください。
下方からの音とはピアノの底から発生している音と、その音が床で反射される際に付加される癖のある音です。
床がピアノで使用している木材と塗装以上の品質でない限り、原音以上に良い音が返ってくることなどありえません。
ピアノの打音はごとごと叩く音、もろにフェルトっぽい音のことです。
構造上はピアノ本体で発生しているかもしれませんが鍵盤から聞こえてきます。
この打音はなかなか消えません。
使わない鍵盤の上に毛布などを乗せてみて効果があるか試してみてください。
可能であれば一度、鍵盤の蓋が閉まりきらないように間に本とかスポンジとかをはさみ、演奏が可能な程度に蓋を下して、なおかつ前のめりになって演奏してみてください。違いを実感できるはずです。
うるさい打音に慣れきってしまっていると、ピアニシモ(pp)でもピアノ(p)で弾いてしまっていることに気が付きます。
大屋根は開いているほうが好ましいです。
下方からの音の割合を減らすという意味では、上方からの音量は豊富なほうが好ましいのと、
大屋根を閉めれば閉めるほど、よりおにぎりのような音になってしまうからです。
試しに立ち上がって演奏して音質に違いがあるか確認します。
立ち上がったほうが良い音が聞こえる場合は、より良い音を聞ける可能性があるということです。
反射板なり、ピアノの位置移動なりでより良い音質を追求しましょう。
変わらない場合は、これ以上の音質は望めないので諦めます。
アップライトピアノはとにかく小さい音で弾けるような努力をしてみることをお勧めします。
ひとたびアップライトピアノの本体が唄いだしたらお手上げです。
まとめると、日本で好まれる音(演奏)はダイナミックレンジが狭く、音量のレンジは大き目が好まれてしまっています。
言い換えるとそれに慣れてしまっています。
これをまずは、演奏者自らが、音量のレンジを低いほうに持っていくことから始めます。
そして、低めのレンジになったところで、改めてダイナミックレンジを広げた演奏を試みてみます。
ピアノの箱鳴りではなく部屋の残響で音楽(演奏)を創る感じにしていきます。
最後に、観客に聞かせる方法
観客とは、お母さん一人のことだったりしますが……
基本は演奏者向けと同じです。
騒音とともにガンガンピアノをたたかなくても聞いてもらえるようにします。
まず、ピアノの下に布団とか毛布を敷いてみます。
観客と反対側の壁や側面の壁もカーテンなり毛布なりで反射を減らします。
側面の壁が平行で定在波になってしまう場合は、遮音か、平行にならないように反射させます。
大屋根もシーツとかでくるんでみてください。
そしてボディの音も隠したいので、ピアノとターゲットの観客の間に遮蔽物や吸音材を置いてみます。
ピアノ関係者?はボディはあまり音質に関係ないとの意見をお持ちです。
ボディよりも、フレームとか響版が音質に影響を与える割合が大きいからという理由でです。
ここではその少ない割合に対しての処理なのでボディにも目を向けてください。
そもそもスタンウェイのボディ(ケース)構造は5mm位の楓を15枚前後?使った音質的にも優れた構造だったはず?です。
無視できません。
可能であればターゲットの前に30人ぐらいに椅子に座ってもらうと理想的です。
アップライトピアノの場合は基本、別の部屋で聞いてもらいましょう。
この場合は細かいセッティングというよりは、良い音のするゾーンを見つけ、そこで鑑賞してもらいましょう。
最悪な座席のホールで聞くより、ロビーのほうがよりクリアな時が多々ありますから。
全体的に響きが足りないと感じられたとしても、近距離に反射物をわざわざ置くのは避けましょう。
たいてい質が悪くなります。
部屋のドアは閉めるのではなく開け放し、長い時間の残響を取り入れるようにしてください。
あと演奏前とかの間も大事です。
集中させることがより良い結果になるでしょう。
以上です。
お試しください。
お断りするまでもありませんが、「手元の楽器をCD75風に」はあくまで風であって実際に近づくかどうかはわかりません。
確実にCD75は量産楽器とくらべて、より厳選された材質と工法、
さらには調律師を含め匠の技の結晶なくしてCD75の音質はあり得ないということを付け加えておきます。
ピアノの基準の音 ニューヨーク・スタインウェイ≪CD75≫を聞く
ピアノの基準の音 ニューヨーク・スタインウェイ≪CD75≫を聞いて
ピアノの基準の音 ニューヨーク・スタインウェイ≪CD75≫風
※そもそもCD75風で無くてもお試しあれ。
マイクの設置方法の種類
呼び名 設置方法 特色 A/B(SPACED) 90cmから300cmの間で音源に向けて平行に設置 指向性に効果あり A/B(一般的) 20cm前後(適当)音源に向けて平行に設置 手軽(一般的なのになぜか正式に紹介されることが少ない) ORTF 110℃の角度で開き音源に向けるマイク間は約17cm フランス放送局仕様(音源の構成と距離で決めましょう) NOS 90℃の角度で開き音源に向けるマイク間は約30cm オランダ放送局仕様(音源の構成と距離で決めましょう) X-Y 60℃から135℃の間でマイク間は0cm(ゼロが望ましい) 位相の干渉が少ない M-S 一本の中に複数のマイクがセットされている 手軽 PZM 壁や床に貼り付ける 位相の干渉がない、手軽 バイノーラル 観客席の着座位置 人間の聴いている音に近く、臨場感がある
そろそろピアノ本体の外見と材質を変えてもよいのではと思う今日この頃