公演タイトル |
上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテット JAPAN TOUR 2021「SILVER LINING SUITE」 |
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公演日時 | 2021年11月11日(木)開演19:00~ |
会場 | 松本市民芸術館 |
出演 | 上原ひろみ:piano 西江辰郎:1st violin ビルマン聡平:2nd violin 中恵菜:viola/向井航:cello |
演目 |
東京近隣の公演チケットが入手出来なかったので300Km先の松本まで行ってきました。
生で「アンサーテンティ」を聞けるのなら安いもんです。
こういった曲は満点ではなくゆらぎのある演奏が一番ですからね。
彼女の場合良くても悪くても最高のライブになってしまうので言うことなしなのですが、不満点がないわけではありません。
もちろんわざわざ言わなくても彼女自身が多分に「そんなことは言われなくてもわかっている」ことだと思われのですが。
ですがアルバムや生演奏を楽しみにしていた一ファンとしては言いたくなってしまう時もあります。
どうしても暗い話になってしまうので、なのでまずは別件の明るい話から
上原ひろみとピアノの録音
ピアノの録音について学ぼうとすると上原ひろみというアーティストは大変参考になります。
演奏技術はもちろんのこと、音色というか録音技術というかリスナーに音楽を届ける技術も優れていると思うからです。
彼女のアルバムやライブ、またインタビュー記事などからたくさんのことを学べることでしょう。
そして彼女のことだけではなく、その周辺に関してもトップクラスのスタッフや機材から、そうでもないものや。スマホでの録画まで様々なものが流通されていることも上げられるでしょう。
その中から最近公になったことについて触れます。
昨年、2020年9月にブルーノート東京で行なわれたライブは日によって異なるプログラムが公演されました。
その中で最初のソロアルバム「プレース・トゥ・ビー」の演目が演奏されました。
このアルバムは全体的にミュートがかかっていて、ノイジーでもあり、お上品ではなくある意味ホンキートンクピアノ的な音色にまとめられていました。優れた録音でもあるので、セッティングなりエフェクトなりで作られた音だと持っていました。
しかし、どうもこれは特定の曲を演奏するための副産物的なものだと思い直しました(証拠はないです。違っていたらごめんなさい)。
特定の奏法をするためのセッティングというか準備が作り出した音色だと思うのです。
その曲はパッヘルベルのカノンを「プリペアド・ピアノ」的に弾いたた曲です。
ご存知のとおりこの曲は弦の上に異物をおいてそのイレギュラーを楽しむ手法がとられています。
これはこれでさておき、この曲をライブ演奏するときにはその異物を事前に準備をしておくわけですが、彼女の場合それをスピーディに行うためピアノのフレームの上に待機させておくわけです。
それはそのまま置いてしまったら余計な音を発してしまうのでタオル等を敷いた上、あるいはくるんで置かれます。
このタオルが曲者です。
異物の発音を防ぐだけではなく、ピアノ本来の発音にも影響を与えたのです。
元々当たり前のことですが、これを明示的に提言している事例を私は知りません。
特に、元々フレームのジリジリした音や、フレーム全体から発信・反射される音のおかげで定位が定まらないことなどに、不満を持っていた私には朗報です。公に優れたピアノと優れた演奏者と優れた録音技師によって聞くことが出来たのです。
問題は、この優れた音色はそのタオルのおかげかどうか? ということです。
とりあえず、カノンは様々な場面で演奏され、その映像と音が残っていて、その異物の保管方法により「プリペアド・ピアノ奏法」じゃない時も含めていろいろな音色を楽しめますが、その音色が100%その保管方法による違いとは環境が様々に違いすぎるので断言できません。
それが、めでたく件のブルーノート東京では断言できることが出来ました。
日にちこそ異なれ、同じピアノ、同じ奏者、同じ技師を含めた音響事情でその違いを表現できたのです。
同じ条件でライブストリーミングされたのです。
そしてそれは10年の時を経て、フレームの鍵盤側前側一面にタオルを敷き詰めるというバージョンアップされたものでした。
明らかに意図したセッティングだということです
その甘く、定位のはっきりした音色は格別なものでした。はっきりと違いが証明されていました。
残念なことに、この演奏はもはや流通していません。
違いははっきりしていたのですが、その当日(ストリーミングはその翌日まで聞けました)にそのことを意識して聴き比べた、あるいは気が付いた人がいるかということが気になります。
とはいえ、フレームに防振材やら、タオルやらをセットすることで音色の改善や変化を楽しむことが出来ることが証明されました。
これで、より良い音のために、ピアノの内部にタオルやら重りを置いてみましょう!と提案しやすくなりました。
ピアノを録音、あるいはPAのための収音などでエフェクトやイコライジングなどすると音の劣化が顕著なのでこういった自然なエフェクトは好ましいと思います。
そして意識的にこれを活用したのは彼女が最初ということになると思います。(もちろん調律師の小沼則仁氏とセットです)
「SILVER LINING SUITE」への不満
アルバムで聴いた時の印象として
- 弦楽を立ち位置通りに定位させるのは良いが、ピアノが左側の低音から始まり左右の全面に定位させているのってどうなんだろう?
聴く側のイメージではピアノが中央で背中をむけて演奏して、その周りで弾いている感じに聴こえます。 - ピアノと相性の悪い、いわゆる明るい音のするバイオリンってどうなんだろう
ピアノと喧嘩するつもりとか、あるいは録音技師がいまいちなのか、それとも何か勘違いしてるとか - 録音全体が素人っぽい
異なるジャンルを録るときにはそのジャンルの知見が不足している時があります。
そのジャンルでは当たり前に避けて通る地雷を踏んでたりします。
また欲張りすぎてやり過ぎ感が少し感じられました。
でライブを聞いて分かったのは
- ピアノを左側にセットされた、ステージと同じような定位を考量したのですね
- メンバー紹介を出身地を含めて紹介されていましたので納得です。
バイオリンは、音のオンオフがはっきりしているので、せめて音の間をつなぐための心意気が大事だったりします。
それを音が切れたとたんにバッサリ、切り捨てるように聞こえる弾き方って。。。東京的かも。
「譜面通りに弾いてますけど何か?」なのはいいけど回りが5分間なら5分間の曲を演奏している中、音節ごとに終了されてしまうのはどうかと。これはテクニックではなく気持ちの問題だったりするのでなおさらおざなり感を感じてしまいます。明らかにブルーノート東京に比べ手を抜いている感が。
一例として、ロックギタリストの速弾きなんて、クラシック畑の演奏者から見ると本当に誰でも鼻歌交じりで出来るくらいテクニック差に差があるみたいですが、だからといって、そのクラシック畑の人が鼻歌交じりで再現しても、曲として面白くなかったりします。演奏ってそれだけじゃあないからです。だから鼻歌交じりのなめてかかった演奏には嫌悪を感じます。見下して馬鹿にされた印象を聞く側が持つことがあるかもしれないということを頭の片隅に置いておいてほしいです。異なるジャンルにトライすると、代表選手みたいな位置づけでより厳しい見方をしてしまいます。アンコールでここ数十年で一番面白くもなんともない二重奏を聴いてしまいました。 - ライブはテンション高めのサムデイから始まったのですが音の悪さに面食らいました。
人間て自分の聴きたい音色に自動調整してくれるのですが、それでもある程度の時間を要します。一曲無駄にしたし乗り損ねてしまいました。
これって録音技師が、ベース領域をチェロが受け持つので低音を少し豊かに鳴らしてあげよう!とかのサービス心かもしれないのですが余計なお世話です。
上原ひろみのファンとして残念に思うのは、彼女の演奏には引き込む力があるので、余計なプッシュは不要ということです。
へたにドンシャリなセッティングは演奏技術を楽しむのには適していません。素人の発表会に有効なようなPA手法をやられると腹立たしくなってきます。アルバムではクリアな彼女のベースランニングがボワボワです。とはいえ、経験不足なスタッフと組んでしまったとしても、それはそれで仕方がないですよね。
ついでに言うと「アンサーテンティ」はこのホールの大きさでもPAなしで十分といかやっぱりPA迷惑でした
不満はともかく、いつでもどこでもすごいなあ というのが一番の感想です。
NYでのライブを聴いてみたい。