ピアノは他の楽器に比べて、ベストな録音方法やセッティングが定まっていません。
それぞれに利点があり、欠点もあるということでしょう。
ピアノの録音方法
コンサート鑑賞やCD鑑賞で、同じアーティストでも、レーベルが変わると音が変わり、ピアノリサイタルでも毎回マイクのセッティング位置が変わってたりします。
ここでは録音する側、録音技師の立場でピアノへの対峙の仕方をお伝えします、参考までにお付き合いください。
又、解釈は様々なので別のサイトや書籍の解説も合わせてお読みしていただくことを推奨します。
あちらもこちらも正解とおおらかな気持ちでお読みいただければ幸いです。
録音技師がどこまでセッティングに関与するかは様々です。
アーティスト自身やレーベル、主催者、プロデューサーが単独あるいは打合せのもと決まったりします。
ただし指示が全くない場合もあり、その場合は録音技師は自身の自力でセッティング出来ます。
録音技師の特徴
・関節音が嫌い
・発信元が見えるところが好き、(大屋根で遮られるなんて想定外)
・オンマイクが大好き
・ホール常設の3天吊では遠すぎると決めつけている
・観客のノイズが大嫌い
・後からの修正が楽な方を選ぶ
・位相差に関しては苦手意識がある
・ピアノの特性すべてを知っているわけではない
・モノラルという選択肢が基本ない(ステレオ感を優先してしまう)
・ミキサー(卓)利用することに抵抗がない(位相崩れはあきらめている)
・指定がなければ、左側から右側に行くにしたがって低音から高音に定位させてしまう
・フラットなマイクをあまり好まない(C414とか)
・可聴域だけで十分だと思っている
・床からの音は無視
・「PZM一発でいいじゃん」は禁句
ピアノの特徴
ピアノのサイズによる種類は大別すると2種類、少し細かく分類すると4種類あり構造上音色も響きも異なります
・コンサート・グランド(全長がおおよそ2.2mから3m)
・パーラー・グランド」(おおよそ1.7mから2.2m)
・ベビー・グランド
・アップライト
メーカーによる違いは、各メーカーそれぞれ特色があります。
例えば大屋根の違いでは、 ベヒシュタインは大屋根を閉じても音量は減っても、音色は変わらない特性があります。
スタインウェイ、ベーゼンドルファーなどは大屋根を閉じると音色まで変わります。
その他一般的な特色
・音域が広い
・音がでかい
・見た目は左側が低音。右側が高音で一列に並んでいる
・単音単位の音源を特定できない
・響版が床と平行(アップライトは直行)
・大屋根がある(アップライトは屋根)
・打鍵の音やぺダリングの音が意外とうるさい
・ピアノ2台の時は右側のピアノは確実に大屋根が外される
・他の楽器と比較すると、比較的メーカーの音色の差が少ない
・構造は様々なのでベストポイントが異なる
これらの特徴と、好みと、機材とで優先順位が加味され収録されます。
実は最初に機材により方針が一転します。
収録する機材が完全にリニアフェイズで完結できるかが一番のポイントです。
皆さんご存知の低音、高音の音量調節を行うトーンコントロールやグラフィックイコライザー。
リニアフェイズではない機材で音色コントロールするとピアノの音は、位相的にほぼ破壊されます。
ハイカット、ローカットもNGです。
もとに戻すことも出来ません。
ピアノの収録で音色のコントロールの必要がある場合は、
破壊しないで低音や高音などのバランスを変更できるリニアフェイズイコライザーを使用します。
リニアフェイズが保てない場合は、収録した音声は本来の音色とはかけ離れたものと認識すべきです。
X-Yステレオ方式とPZM以外は全滅です。
このフェイズに関してまるで知らない・無関心な録音技師さんも多数いるのも事実です。
一般的にはピアノから2〜3mぐらいの距離で高さ2m前後とかで各自好みの位置があると思います 。
ピアノ本体の中にマイクを入れている場合もありますが特殊な効果が不要なクラシックではあまり好まれません。※1
それでも入れるときは全体の音声を別のセットで収録しているがイマイチエッジ(パンチ)が足りないと予想される時に、
あとから足せるように予備的に録ったりします。
ピアノの下部、床と響板の間は豊かな音色で溢れかえってますが、あまり此処に専用マイクをセットしているのを見たことがないと思います。
残念なことにクラシックでは豊かな低音は好まれていないようです。
しかしコンサートホールではなく、サロンや自宅などで聞いているような迫力や豊かなボリューム感は床からの音を取ることで実現できます。発表会レベルの場合はこちらの録音のほうが本人に喜ばれます。
一般的なマイクの位置でもマイクの向きがピアノではなく床向きにセッティングされていることがあるかもしれません。
マイクの向きは要チェックです。
ピアノ本体にセッティングする場合の位置はそれぞれ各自持論がありそうなくらい様々です。
注意してみると面白いですよ。
ピアノ本体に近づけたい技術者さんは、直接音が好きな場合と、雑音が嫌いな場合があります。
ピアノは結構打音とかペダル操作の音とかうるさいので、兼ね合いとして距離が変わってきます。
ステレオにこだわるあまり正面から見て左右にセッティングしている場合、
左側から木魚(ハンマーの打音)の音が聞こえたりします。
もちろんこれは通常は失敗です。
また響板の穴付近は癖がありすぎるのでよろしくありません。ピアノの設計者さんも此処での収録は薦めないでしょう。
あと演奏会の録音では、大屋根の開け具合はコントロールできませんが、録音のみの場合は有効に使いましょう。
開け具合による音質の違いはもちろん、録音場所の広さによる残響にも影響があります。
さらに残響コントロールとして遮音板代わりになることもあります。
録音のみの場合、大屋根はツールとして活用しましょう。
これだけ苦労するマイクセッティングですが、無造作においた「PZM」にあっけなく負けたりします。
いくら頑張ってもあまり苦労が報われない悲しい楽器です。
ピアノ単体では以上のような感じですが、これに合奏者の音量バランスが異なる楽器や音声が加わると更に到着点のないセッティングに悩まされることになります。
合奏時のセッティングは又改めて。
では
追加:2016年の記事です。参考までに。↓
☆2014/5/14追加:
アップライトの録音について
アップライトの録音は、天屋根はもちろん開けます。
ブームを使って中にいれたくなりますが、その場合は低音のチェックをお忘れなく。
位相的なNGポイントが理論上発生します。気にならなければよしです。
それよりもやはり雑音が気にならないポイントを選びましょう。
私は周囲の騒音よりも、ハンマーの打音のほうがピアノの音を台無しにしていると感じます。
ただしアップライトの録音の場合って、初心者さんの録音が多いと思います。
その場合に、ハンマーの打音は、日本人的に好まれるレンジが狭くて力強い音になるので、
視聴に耐える録音になったりします。
録音した成果物を評価する方の求めているものに合わせましょう。
音質を聴きたいのであれば、オフマイクのが良いです。
記録を残すだけならオンマイクでレンジを狭く録ると、聞きやすくて喜ばれます。
※1
大屋根ありでピアノ本体の中にマイクをセッティングしたばあい、特定の音に対して、音量か音質の変化があります。
かならず、劣化した音と、強調された音が見つかります。
その音の特定は実際にセッティングして、実際に全部の音(キー)を一音一音打鍵し、レベルメーターとオシレーターなどで波形チェックを行いながら実施しないとわかりません。
その結果実際の演奏に不具合がありそうな変化が認められた場合セッティング位置を変更することになるのですが・・・、
通常録音のためにこのような作業は行わせてもらえません。
なのでフラットに取るという意味では完全NGです。なのでクラシックではありえないと言っても良いと思います。
ただし音色を作るという意味ではありです。
この本来正しくないセッティングは音楽自体が面白くなるという効果はあります。
セッティング場所により音色がコロコロ変わるのでいかにもクリエイト感が出ます。
ただし「録音技師の技術」ではないと断言してもいいと思います。
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