世界三大ピアノを聴いて
ピアノのメーカーの違いや製造時期によるピアノの評価について気になったことがあるので調べてみました。
昨年2014年に調布音楽祭というイベントで反田恭平氏のピアノを聴き有望な新人が出てきたものだと、後日行われたリサイタルにも出向きました。
演奏会は有名なニューヨーク・スタインウェイCD75を保有しているタカギクラヴィア 松濤サロンで開催されました。
調律師として著名な高木裕氏によって調律(整音)されたピアノ、そして才能あふれるピアニストの組み合わせなので、一つの完成されたピアノの音というものが聴けるであろう、そして聴けたであろうイベントでした。
確かに、素晴らしい演奏会でした。そして素晴らしいピアノの音色!。
と言いたいところだったのですが、いきなり素人が「素晴らしいピアニストと素晴らしいピアノだ!」と叫んだところで通じないのがクラシックの世界。
反田氏はほっておいてもすくすく伸びるであろうからよいものの、このピアノは本当にいい音なのだろうか? これは素晴らしい!といいきるには情報が足りませんでした。どこがどういいのかの程度、尺度というものをまるで持ち合わせていなかったのです。そこで素人レベルでできる範囲で有名なピアノメーカーの情報やコンサートで実際に聴いてみての、感想をまとめてみました。
ピアノの評価方法について
最初に述べないといけないのは音楽には順位付けは必要ないということ。
あるのはコンクールなどのイベントでの優位性、名を売るための権威付け、キャッチコピー、楽器の販売戦略、そして楽器や書籍、音楽CDなどの商品を販売するための戦略、販促などをバックグラウンドに、さも観衆(聴衆)、演奏(楽器購入)者のために役立つ情報が拡散されていること。
これは悪いことだと言っているのではなく、様々なスタンス、視点があるということを言いたいのです。
状況を把握し、正しく解釈しないとその情報が、必要ないばかりか、無駄に惑わされ、また正しい評価がないがしろにされてしまう危険性も内包していそうだということです。
何を言いたいかというと、共通の尺度が全然見つからなかったということと、コンサートや録音アルバムでしか聞くことのないリスナーとは別に、ピアノ業界は奏者に向けた業界でもあることからリスナーと奏者の視点も販売側の思惑もそれぞれ大きく異なるといえ、リスナーの視点からは独り勝ち状態のスタインウェイが、実は他の視線からや本来の「ピアノという楽器」としてみた場合には、それほど独り勝ちなわけではなさそうだということです。 国産の大衆車は至れり尽くせりのスペックであるにもかかわらず、車好きが話題に取り上げるのは夢のスーパーカーにしか向いていない!みたいな状況のようです。
ピアノの音とは
現在、ピアノの音として良い音の基準はというとまぎれもなくそれは「スタインウェイの音」を指していると思います。
スタインウェイ信者の「昔のスタインウェイは良かった」も信者じゃない方も含めた「今のスタインウェイはだめだ」もひっくるめてスタインウェイの音は似たようなものです。
そんなことはない、全然違うとお思いでしょう?
これが、先ほど述べた視点、スタンスの違いです。
スタインウェイの音の特徴は、常に演奏者や運営者のニーズによって作られていることが特徴と言えると思います。そのニーズとは大きな音がすることと、ソロから伴奏まで幅広い音色が出せること、安定していることだとかです。大きな音量が出せれば一度にたくさんの客を呼べ、そしてCDやレコードで聴き慣れた名演を再現することが求められたと思うからです。
例えば、自分のお気に入りのメーカー。機種を、最寄りのレンタル店からリースとかしようと思うと約20万ほどが相場だとして、これがホール常設のピアノで済めば、ピアノ利用料2万円、調律代2万円ぐらい、全然安く済みます。これでホールを貸し出す側も、借りる側にも大きなメリットになることがわかります。ちなみに杉並公会堂はスタインウェイD-274、ベーゼンドルファー model290インペリアル、べヒシュタイン D-280の世界三大ピアノを保有していることで有名で、料金も手頃で調律込みでそれぞれ約1万円です、(実際には大きさの異なるホールに合わせてのチョイスのようです)。この三台の設置率ですがベヒシュタインは国内の常設ホールの一覧が公式サイトで案内されていますが、ベーゼンドルファーとスタインウェイにはそのようなリストはありませんが、そのことが多くのホールで両者を常設していることの証でもあることでしょう。
例えばピアノのストラディバリウスと言われるベヒシュタインを利用したアーチストの来日コンサートを見に行ったとして、ヴァイオリンのストラディバリススの「遠鳴り」を期待したらそれは失望に終わることでしょう。同様にそのコンサートがベヒシュタインではなくスタインウェイで開催されたとしたら、果たしてその演奏を気に入ってもらえることができる確約は危うくなってしまうことでしょう。
スタインウェイはここで、ほとんど定義など存在しない「良い音」ではなく目に見えるそれもお金に換算できる項目を優先したのだと思います。優先事項を守り、ニーズを満たしてから質を整えたのだと言えるでしょう。「良い音を出せばわかってもらえる」ではなく、先にスタインウェイの利用率を高めることで、様々なニーズを受け入れることにも成功していると言えるのだと思います。
そして、今となっては「スタインウェイの音がピアノの音だ」と言えるほど、標準、基準になってしまっています。独り勝ちするのも当たり前です。
そのような中、もう一度「今のピアノは良い音で鳴っているか?、もっと良い音がするのではないのか?」について見直してみましょう。もちろん今のピアノとはスタインウェイっぽい音のことです。
私もファツィオリ(FAZIOLI)創業者の意見に賛成です。
例えば、別の楽器で例えて言うと、スタインウェイのピアノの音は、フェンダー社のフェンダー・リバーブに同じくフェンダー社のストラトキャスターでいい感じにオーバードライブをかけた感じの音に似ています。そして、その音が好きな人はたくさんいます。しかし、マーシャルがいいという人もいるわけです。ロックギターの世界ではマーシャルの方がよっぽど聞き慣れた音なので、こちらの世界ではフェンダーをスタンダードとは押し通せません。とにかく、人それぞれです。見方を変えればどちらもいい音ということです。
そしてFAZIOLIのピアノは良い音がしていると思います。遠鳴りもしていると思います。ただし、演奏者に取っての耳障りがいいかは不明です。
(そもそもここでは調律師しだいの鍵盤のタッチや、奏者に聞こえる音色には触れていません。)
では、スタインウェイのどこがダメかといえば、次のような点です(異論があると思いますが・・・)。スタインウェイのピアノの作り(音)は低域音声を基音をあまり出さず倍音でごまかし、高域音声を倍音を出さずに基音のみにし、レンジを狭めることでエネルギーの効率化を図り、そして人間にとってもわかりやすく万人に届く音声に仕上げることで、軽いのに強度も音量もあり遠鳴りもする楽器に仕上げられたということです。例えるとクラシックギターの音とハードロックのディストーションサウンドの違いであったり、ハイファイとばかりに広帯域で録音された音声(演奏)を、一度ラジオ番組番組の放送電波に乗てレンジを狭めることで聴きやすい音に仕上げるスティービーワンダーや、必ずラジカセでクオリティチェックするドリームカムトゥルーみたいにその効果はてきめんですが、録音技師から見たら良い音ではなくなっています。今も昔もその点では大した違いはなく、ニーズ(優先事項)が少しずれているだけです。理想ではなく現実的な「良い音」を目指していることをダメ出しする必要もないような気もしますが、現状は、それ以外のピアノがダメ出しされているのに等しいように取れる場面に出会うことを憂いての意見だと思ってください。
世界三大ピアノの違い
結局どこがどう違うのだ、ということを私なりに書いておきます。多分に側面だけしか見据えていなかったり、間違った解釈だらけかもしれませんが、少なくとも一つの感想ではあります。
三大ピアノの三連弾という、一列に並べて一斉に弾きまくるというかなり無茶なコンサートは、それぞれの特徴や問題が浮き彫りになったと思います。
例えばスタインウェイは常にバランスよく鳴り渡り伴奏でもソロでも安定しています。
ベヒシュタインは繊細な箇所があるのでしょう、単独での美しさと裏腹に何やら共鳴しまくりそこにいるだけで雑音発生源になっているような気がしました。
ベーゼンドルファーはうたい文句の通り低音域を正しく発音(自然な基音)しているように思われ、他のピアノの低域をも助けているように思えました。もしかしたらベーゼンドルファーとの共演は低音域が豊かになる効果があるかもしれません(経験不足のため不明)。しかし全体的に音色がおとなしいので目立たなかったり、目立つ時にはうるさかったりするかもしれないのでは?と思われました。
この3台を通常のコンサートの前列で聴いたらベヒシュタインが一番ピアノっぽいのではないでしょうか(未確認)(見上げて聴くホールの前列は床からの音を聴かされる特殊な空間です)。
そしてこの三台の良い面を合わせたのがファツィオリではないでしょうか。KAWAIも近いところまで行っているように思いますが肝心な何かが足りなくて、演奏者次第(ほとんど自滅)になってしまっているような、YAMAHAはあとは素材次第(木材の)なのではないでしょうか。
今のスタインウェイは良い状態ではなく、昔のスタインウェイなら良い、ではなく、うかうかしていると他のメーカーの置いてきぼりを食らう、と言えるのではないでしょうか?
しかしそれには長い年月が必要だと思います。
結論
調べていて一番強く思ったのは、もっと情報を提供して(残して)欲しいということ。
各ピアノの特徴に始まり録音アルバムではどの楽器を使い、コンサートではどのピアノを使うか?
ピアノの購入はお店に行って販売員から直接話をさせて頂くというスタンスなのかもしれないのですが、単なるリスナーからすると、それはめんどくさい風習なだけです。CDアルバム買うのにも、コンサートに足を運ぶにしても、いまいち不満感が残ります。
それぞれのピアノがそれぞれ特徴的であるので、そもそも録音アルバムには使用したピアノの機種名の明記、同様にコンサートにおいても使用楽器の明記をすることで、色々と妄想も膨らみ、当日の楽しみも増すというものです。
先日のコンサートの例でいえば購入したアルバムには使用しているピアノの情報が書かれ、三台のピアノを6人で入れ替わりたちかわりで異なるピアノを弾いたその記録を後から確認できることぐらいは当たり前になって欲しいです(例えばアンコールの演目のように)。それが1年後2年後にも参照できるようにです。
そうすれば昔行ったコンサートを後々思い返すこともできるし、これから行くコンサートは前回はどうだったかなどの情報を得ることができて、より(価格以上に)コンサートを楽しむことができることでしょう。
そして、どこもかしこもスタインウェイではなく、ホールの大きさや特徴にあったピアノが置かれ、それぞれが味わいや特徴のあるコンサートととなってくれれば毎年毎年、毎回毎回、足を運ぶ価値があることでしょう。
これぐらいはホールや、イベント運営サイドの売り込み方次第でしょう。 クラシックはそろそろ目新しさや新たな楽しみ方が必要な時期に差し掛かっているでしょうし。
以上
世界三大ピアノを聴いて
でした。
PS:あまり各社のピアノの違いに触れていなくて申し訳ありません。既にそれなりのクオリティに達しているので、音の違いもはやそれほど騒ぐほどもことではないのかもしれません。改めて今回聞いた限りでの三台の特徴をざっくり言わせていただくと、スタインウェイが良くも悪くもまとまっていて、特に位相の処理がうまいのでしょうか、音の広がりが自然でフレームのあたりからの響きがそのまま広がる感じでした。対してべヒシュタインは箱(リム)の形の通りに上方に立ち上がっていく感じです。これはとってもリスニングポイント次第で音が変わってしまうことでしょう。ベーゼンドルファーは、よく言えば自然、悪く言えば特徴がないとか、埋もれやすいとか・・・好みが分かれるのではないでしょうか、録音も難しそうです。
参考
- http://www.steinway.co.jp/
- http://www.bechstein.co.jp/ 納入ホール一覧
- http://boesendorfer.jp/
- サントリーホール使用料
- 杉並公会堂施設概要
- オペラシティホール利用料金
- 三重弾
- FAZIORIを聞いてみて