ピアノの録音その3
いまさらですが一般的なピアノの録音方法を紹介します。
ただし録音は技師なり責任者なり演奏者なりのそれぞれの好みがあるので、結局当事者が納得すれば「良し」です。
例えばワリと良い録音として紹介されているかもしれないアリス=紗良・オットーの次の演奏を聞いてください。
(削除されていたらごめんなさい)
このような、高音部が木琴な録音でも「良し」です。
(これは残念ながら、みなとみらい大ホールの三階席で聴いたオットーにくらべ、曲としても録音としてもはるかに劣る音です。)
あるいは、高音部の良い音を探求し、「大屋根を外し、低音部側から単一で狙う」とかの廃人コースも「良し」です※1。
それでは紹介します。
一般的なピアノの録音方法
ホール常設の吊りマイクがDPA4006などであれば、そのマイクをメインにするところから検討します。
SM69だったらピアノ向けでは内面もあるので一考の余地ありです。
騒音の問題や、距離的に後ろ(ウェット)だと思ったら前(ドライ)用にスタンドを立てます。
手頃で一般的なのが、AKG-C480に無指向性カプセルCK62とか、U87とかでしょうか。
常設の吊りの場合は、できれば長時間モニターしてノイズがのっていないことの確認が必要です。
ノイズがのっていたら諦めましょう(本番が一番過酷なので事前確認が役に立たない場合がほとんどですが)。
スタンドだけで良さそうな場合も、トラックが余っていたら録音しておくことをすすめます。
スタンドの場合はペダル音や靴の音などの遮音や防音も検討が必要です。
その意味ではやはり吊りが良いのです。
スタンドの場合は可能な限り高いポイントに設置します。
この際、大屋根の角度は無視して構いません。
大屋根が気になるのなら外してしまいましょう。
または逆に防音壁として利用するつもりで考えると良い結果になったりします。
またピアノ版コンタクトマイクのPM40も打音などのノイズだらけなのでクラシックでは厳しいでしょう※2。
吊りでもスタンドでも、マイク(カプセル)間の距離は可能な限り狭めるのをおすすめします。
吊りで1m位、スタンドは20〜30cm位、角度も、ピアノからの距離によりますが広げても20度くらいまで、平行でも構いません。
像を広げたい気持ちはわかるのですが、広げることのデメリットのほうが取り返しがつきません。
後述しますが残響や広がりについては、エフェクトで後付けする前提でいるほうが現実的です。
ただしステレオ再生の見地からの「一般的な定位感」を尊重する場合は、90度とか、110度とかの開きが必要な場合があります※3。
同様な意味でアンビエンスも考えものです。別トラックならまだしも、ミックスでは取り返しがつきません。
なぜなら大抵の場合、アンビエンス的な見地では録音環境が劣悪なことがほとんどだからです。
例えばサントリーホールの貸し切りと同等のような良い環境で録音できるかどうかは微妙です(勝手知ったるホールなら別です)。
スタジオ、小ホールや、響きが貧弱なホールでは結局、豊かな残響などは自然音では録りきれません。
そのような、豊かな残響などが必要な収録の場合は、逆に、
早々に見切りをつけて、鑑賞位置としてベストなポジション(席)の位置にレコーダーを置いて、残響マスターとして録音しておき、後からリバーブなどのエフェクトを付け加えましょう。
間違ってもリアルタイムにエフェクトをかけるのは無しです。
単独のピアノリサイタルであれば以上ですが、
バイオリンやチェロなどを含む発表会などのほうが機会は多いでしょう。
それらの楽器の録り方も簡単に触れます。
バイオリンやチェロなどはモノラルで録るのが通常ですが、近接で2本立てる「デュアルモノ」のほうが広がりも得られるし、あとでの加工も楽です。
もしも、バイオリンなどの定位をパンポットで設定するつもりがあったら、アンビエンス的マイクの設置を検討しましょう。
2本のスタンドを1〜2mぐらい広げて設置します。
そしてその際に、バイオリンがマイク間の中心にくるようにではなく、定位させたい位置に収まるように偏らせて設置するのです。
例えばバイオリンを左端に定位させたいのであれば、一本目をバイオリンの前方に設置し、二本目はピアノを含めた右端に立てるのです。
二本目のマイクはほとんど直接音を取れないにしても、とても自然な臨場感が得られます。
例えば次の写真の吊りマイクを、観客席側に1〜2m移動するとそのままバイオリンが加わっても自然な録音になるでしょう。
次の例はコンタクトも使い「デュアルモノ」も使っている例。
ただしこういう録音は、スタジオ録音含め、見た目のマイクだけでは再現できないエフェクトが後から加えらているはずです。
あと、チェロはまだしもバイオリンは楽譜の位置含め、楽器の向いている方向を確認しましょう。
必ずしも観客席と平行(直行?)の必要はありません。
設置する距離はその楽器の演奏のじゃまにならない程度で最前がよいでしょう。
最終的な残響は後付けにしましょう。
言い換えると後から残響が必要なくらい前(ドライ)がベストということです。
最後にマイク一般について触れているリンクを紹介します。
この通りに行えばどこからもクレームは来ないでしょう(多分)。
ただし、一般的な状況と、ピアノに限った状況との違いは常に認識しておく必要があります。
https://www.reddingaudio.com/downloads/Rycote%20Technical/The%20Stereophonic%20Zoom.pdf
では。
ピアノの録音方法 その3
おまけ(追記):
木琴が嫌いな人に朗報。
ファツィオリの録音風景です。
昔(私のころ)はこのセッティングをすると微妙に馬鹿にされたものです。
実はピアノっぽくなくなるのです。
しかし良い音が取れます。
これで大手を振ってセッティングしてもよいでしょう。
後は演奏者の個性に期待しましょう。
※1
非常識と言われます。
一旦、この位置からの音を気に入ってしまうと仕事として成立しなくなります。
※2
もしも利用できるのであれば高音部のみをミックスすると面白そうですね。
(もちろん私は使ったことはありません)
https://www.minet.jp/earthworks/pm40
※3
無指向性は単一より多めに広げないと同じ感じになりません。
ピアノ録音で90度(45度)以上広げるのには違和感があります。
それはステレオ装置のための録音で、ピアノのための録音ではないと思っています。