トッパンホールの音響 理想と現実
永らく行く機会のなかったトッパンホールに満を持して聴きに行くことができました。
そして一回目は、まあまあご満悦。
ところが二回目、音響とか音質とかにはめっきり無縁の妻が天を見上げてしまいました。
「オーマイガッ」です。
これはホールの音響関係者にとってはもっとも不名誉な出来事!。
では、トッパンホールは私たちの<お気に入りのホール>から外されるのか?
いえ、トッパンホールは<優れた演奏の聴けるホール>としてマークされました。※
※全面的に、もちろん私たちの狭い見識の中でのお話です
3月に入り、この時代に居ることの幸運を実感できる<Hilary Hahn>に始まり駅の構内でのイベント「Bach in the Subways in Tokyo」まで、様々な演奏を聴くことができました。
演奏者から、演奏場所、使われる楽器までピンキリを短期間に堪能することができました。
その中で感じたことを、いくつか残します。
まずは、
トッパンホールの理想と現実
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このホールに限らないのですが、一期一会ともいえるようなアーティストの演奏で、予定された演目はプログラムとかチラシで確認できるのですが、アンコールなどの情報は演奏終了後にお知らせしてくれるのはうれしいのですが、後日改めて確認したくなる時があります。
そんな利用者のニーズに対してのホール側の取り組みの姿勢とかもホールの評価につながると思います。
そういった意味で同ホールのホームページでは、トッパンホール主催のイベントしかアンコールリストが掲載されない残念な部類に入ってしまいました。
「トッパンホール公式ページ」ではホールの概要について次のように唄われております。
トッパンホールには、クラシック音楽を楽しむための理想的な環境があります。一歩ホールに足を踏み入れれば、その静けさにきっと驚かれるに違いありません。ホール全体を「浮き構造」にすることで都市の様々な騒音や振動を遮断し、静謐を湛えた神聖な空間を実現しました。また、コンサートホールにふさわしい特性を持つ花梨、樺桜、檜等の構造材の組み合わせにより、演奏しやすく、聴きやすい理想の音響性能を備えた、まさに「音の聖域」を実現しています
この、設計通りの静寂は、なんと、演奏が始まると破局を迎えます。
破局は、グランドノイズ、安騒音、反響、残響、共振、呼び名はともかく、これらの中から生まれているのでしょう。
これは、室内騒音の音騒音の指標値の、NC値はもちろん―15の最低値ですが、そのことではありません。
一般に、<暗騒音と演奏のレベル差は、10dbあれば許容される>、とか言われているのとも違います。
演奏前から鳴っている雑音ならともかく、演奏が始まる雑音なんて、昔のテープレコーダーのヒスノイズを彷彿とさせます。
このノイズは、ホールの構造や設計というより、照明機器によるものでしょう。
もともと音響にとって、<これ以上ヒドイ物はないといわれる照明機器の材質>はもちろんですが、その共振具合から、それだけではなく電源の影響もあるのではないでしょうか?
それはオーディオファンは、蛍光灯なんて決して点灯させることはないことに始まり、ありとあらゆる電源をバッテリー駆動にしてしまうほどの、電源によるノイズ混入のことです。
調光器気なんて(方式にもよりますが)最悪もいいところであることは周知の事実です。
単純に電源の汚染だけではなく周辺の電気機器の共振具合にも影響が微妙にあったりします。
かくして、演奏が始まるとともに「ブーン」となるわけです。
現に、客席の証明が落とされていくことと連動して耳鳴りのような違和感が発生してきます(気圧や空調のせいではないと思います)。
このことは、(単純に電子機器による)レベルの問題だけではなく、人間の耳が自動的に行う「環境補正」にも影響があるでしょう。
というより「環境補正」が行われることによる、違和感や、演奏への集中が失われることのほうが大きいでしょう。
なにせ、耳が勝手に反応してしまうのですから。
違和感を感じた観客は、演奏を聴きいるのではく天を見上げてしまい、
それを見た演奏者も「オーマイガッ」です。
この結果は、様々な形となって現れることでしょう。
例えば、
- 演奏の幅がない
- レンジが狭い
- 小さい音が不明瞭だ
- 小音量の残響が乏しい
- 演奏に艶がない
- 演奏者を選ぶ
- 楽器を選ぶ
- ホールの出来が悪い
それは、ホールの評価のみならず、時には演奏者に残念な評価を与えていることが想像できます。
と、さらに壁面の構造と材質からでしょうか、
- 残響の音質が、原音と違う
これが設計者の意図通りなら、これこそホールの特徴ですが、たしかにホールや演奏者の印象に多大な影響がある事でしょう。
私たちの環境では違和感でしたが設計元の意図している、あるいは想定している構成や曲調などでは、ご機嫌なのかもしれません。
しかしこのことにより、世のホールの評価にブレや影を落としている一因なのではないかと思います。
では、良いところは何もないのか?
もちろんそんなことはありません。
- 客席位置の音響差が少ない
- 奏者が多分ご機嫌である
- 残響特性は良い
- 席もゆったり
- 全体的には静寂
- 2階のレストランが適切価格(らしい)
- ホールの大理石のベンチがなんと暖かい
音響的には中央のホールを横切る通路あたりの2~3メートルぐらいの高さがベストポイントかと思われますが、それ以外の位置でも特に問題はないというより、悪い個所がないといえるほどの設計者冥利につきる作りなのではないのでしょうか。
そして、それがステージ上、演奏者のポイントでも実現していると思われるのです。
客席のベストポイントの音に近い音を、演奏者が聴くことができることはまれと思われます。
それがここトッパンホールでは実現されていそうです。
通常であれば直接音か、聞くに堪えない共振やエコーに近い残響になってしまうところですが、ここが設計の良さなのでしょう(もちろん永田音響設計)。
このことが観客席の最前列でも、そこそこの音響で聞けることに結びついていることでしょう。
加えて、微妙に音質が異なる残響は演奏者にとっては原音と、残響を区別できることになるので、演奏そのものへの悪影響は少ないことでしょう。
公演直前にチケットを購入し、そして、私たちにとって一期一会な演奏について、少なくとも演奏者の実力が発揮されやすいホールであるということは、なかなか他のホールにはない特色といえるでしょう。
特に今回、ストラディバリのチェロによる演奏は、
生で聞くことはないであろうと思っていた、最高の楽器の原音と、例えは悪いが<優れた電子機器のリバーブ>と同等な、理想的な残響を生で聴くことができました。
デュオ・レオノーレ リサイタル
チェロ:マーヤ・ウェーバー(Maja Weber)
ピアノ:ペール・ルンドベリ(Per Lundberg)2015年3月4日
チェロにはお勧めです。
この時の伴奏のスタインウェイはどうかというと、
F列中央では残念でした。
といっても、スタインウェイ・アンド・サンズの残念なところが際立っていただけでホールのせいではないです。
これではピアノソロでわざわざ行くことはないな、と思っていた矢先のファツィオリ(Fazioli)のコンサートは、ホールの影響を受けにくいピアノもある、という貴重な機会を与えてくれました。※
ボリス・ギルトブルク ピアノリサイタル
ピアノ: Boris Giltburg
2015年3月18日
ではバイオリンはというと、聴いてみないと何とも言えないので又の機会に致します。
では
トッパンホールの音響 理想と現実
でした。
※FAZIOLIについては改めて投稿させていただきます。